医学部医学科人気の現状10項目と将来展望
医学部医学科は、未だ人気があります。競争倍率も地方大学でも高く、私立大学も軒並み狭き門です。
これにはいくつかの理由がありますが、思いつくまま10項目列挙してみました。
1)政府が医学部医学科を増やさない
2)高齢化社会の到来に医師の需要も膨れている
3)親が開業医で、必ず継がなければならない
4)お金をもらって感謝される
5)生命予後の鍵を握れる=やりがいがある
6)医師国家資格を取ると誰でも先生(DOCTOR)と呼ばれる
7)平均収入が高い
8)高度経済成長から高齢化社会となった
9)学業成績優秀者は周りから医学部受験を勧められる
10)弁護士や公認会計士、官僚が厳しくなってきた
などなどあります。
1)、2)は需給バランスの維持です。医師または日本医師会の既得権意識も入っているでしょう。
3)はよく見られます。開業物件継承であれば、初期投資もいらないので、余程のことがない限り、経営は安定します。
4)は何も医師に限ったことではありませんが、通常の経過であると、必ず感謝されます。通常は、サービス提供者がお客様に、サービスを提供して、『お買い上げいただきありがとうございます』、『ご利用いただきありがとうございます』とサービス提供者が言うのが、一般的ですが、医師の場合は逆となります。
5)はやりがいの根源になります。外科医にとって手術を事無く済ませ、元気に退院してもらうことが何よりの安心・喜びとなります。
6)は先生と呼ばれる職業はいろいろありますが、ドクターと呼ばれるのは医師を含め少ないです。
7)は平均収入がまあまあいいだけであって、普通に暮らすことに何ら不自由はしません。ただし、セレブのように贅沢ができるわけでもありません。勤務医はサラリーマンです。
8)高度経済成長期には、魅力的な職業が他にもたくさんありました。今は高齢化社会の世話人、情報化社会の先導者(Google、アマゾン、Facebookなど)が人気の職種ではないでしょうか。
9)は私学の高校、予備校はすごい勧めるようです。
10)は法科大学院が出来て司法試験合格者が3倍となり、元々需要の少なかった弁護士さんが、借入金の過払い金取り戻しを積極的に宣伝しています。もちろん、正論の正攻法で、法人の司法・会計マネージャーとして活躍されている弁護士・公認会計士、日本国をしっかり支える熱意を持ってらっしゃる官僚の方々も多数いらっしゃるのもまた事実です。
歯学部は、一昔前と比べると、人気が落ちています。これは、歯科の診療報酬点数が下がってきているのと歯科医院が増え、パイ(患者さん)の奪い合いが起きているからでしょう。歯科は、勤務医という概念が乏しいです。勤務歯科医の報酬は、少ないです。だから、開業に目標が設定されますし、歯科医院が増えていく、デフレ・スパイラルのようになっています。
ただし、このような過当競争の中、頑張っているところはあります。インプラントに傾注し、展開する。歯周病もしかり、矯正もしかり、在宅歯科医療もしかり。バイタリティがあり、しっかり稼いでいる歯科医もweb外科医の周りに多数いらっしゃいます。
医師として、時に歯科の先生より質問を受けます。「この方は、ワーファリンを飲んでいますが、抜歯は可能でしょうか?」とか、こういった時にふと思うのですが、虚血性心疾患専門歯科医院、糖尿病専門歯科医院的な発想で、歯科医院をプロデュースするのはどうかなと思ったりします。
虚血性心疾患の患者さんは、抗血小板療法、抗凝固療法を受けていますし、歯周病とプラークによる心筋梗塞は広く知れ渡っています。地域の中核病院の循環器科と連携を取りながら、虚血性心疾患に詳しい歯科医院には、患者さんも安心して身を委ねるのではないかと思います。
糖尿病も歯周病と特に因果関係があります。『HbA1cがどうだ』とか、『薬物治療あるいはインスリン治療がどの程度行われ、糖尿病の現状がどうだ』とかといった具合に、歯科医療を展開できれば、糖尿病の患者さんも安心してかかれるのではないかと思います。
美容外科医、男性の悩みに特化したクリニックも多数あり、莫大な宣伝費をかけています。概ね収入は一般の保険医療医に比べると2-3倍となるかと思います。ただし、これが好きで或は情熱を傾けてやれないと、意義を持ちません。つまり、お金だけを目標とすると、虚無感にさいなまれます。
私が、高校を卒業した高度経済成長期は、官僚や建設会社、土木関連、電気事業、パイロットなども非常に人気がありました。官僚は、マスコミからの中傷のターゲットとなり、天下りの好も消え失せてしまいそうです。
建設、土木、電機は日本の人口が増えない限り、日本をマーケットとした繁栄は望めなくなっています。パイロットは、JALの教訓、格安航空会社の台頭で、人気の復活は厳しいように思います。
日本の人口増大がなくなり、高度経済成長がなくなり、高齢化社会が到来した現在、まだ需要があり、平均給与がそこそこ高く維持されている医師が、削除法的に人気が保たれていると思います。
ただ、医師も、日本医師会会長が武見太郎だった時と比べると、厳しいものになってきたと思います。どんぶり勘定でも、儲かっていた開業医が、今では、新たに始めるとなると、研ぎ澄まされたマーケッティングと経営戦略がないとつぶれてしまいます。
日本医師会の理事は、過去はほぼすべて開業医で構成されていたのが、昨今、勤務医の割合も増えてゆき、開業医への優遇も徐々に減り、勤務医、例えば外科の場合、手術点数(特に高難度手術)の診療報酬単価が徐々に上がってきているのは事実です。しかし、これが勤務外科医の報酬に未だほとんど反映されていません。
度々、話題になるのですが、医者になって1年目の外科医が執刀する手術とベテランで、何がしらの専門医の資格を持ち、経験豊富な、例えば天皇陛下のバイパス術を行った順天堂の天野教授が行った手術も料金が同じというのは、本音ではおかしいと思っています。
米国では、医師のスキルがインセンティブに反映され、外科医では、ボード(専門医)を取得すると、収入が5倍ほどに跳ね上がります。日本は、社会主義的な医療制度、あるいはもぐらたたき的な社会のため、こういった制度は導入されていません。
ただ、米国のようになっていく風潮、気風はあります。外科学会ではかつて議論されたことのない、「外科医の適正な報酬とは」といったテーマでのセッションが設けられてきています。
夢と情熱をもって医師という職業を全うしていこうという考えの中に、病める人を助けたいという想いと、適正なインセンティブの付与が、車の両輪のように調和することが、医学部人気の継続に不可欠と思います。
それに加えて、需給バランスです。需給バランスは政府と日本医師会の方針でいかようにもなります。現に、ヨーロッパのイタリアでは、医師の仕事がなくなりタクシードライバーの兼業もしていることを噂で知りました。
国家の需給バランスの維持に加え、純粋な気持ちで、生命の根源に触れたい、それに携われる仕事がしたい、労力を惜しまない、収益を上げて、新規医療器具を導入し、知識・技術・経験を、患者サービスに還元したい、これらのコンセプトを持つ若手が医学部に入ってくる割合が増えれば、医学部人気はしばらく続くのではないかと考えています。