消化器がんの動向予測―食道・胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓がんの場合
代表的な消化器がん(食道・胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓がん)の疫学と原因をもとに、近未来の死亡者増減予測をしてみました。
【食道がん】
男女比約6:1、年間死亡者数1万1千人(2012年)。原因は加齢、喫煙、アルコール、熱い食べ物嗜好、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子変異などです。ALDH2は、アルコールの代謝産物のアセトアルデヒドを分解する酵素で、ALDH2遺伝子変異(日本人の約40%)があると、アセトアルデヒドが蓄積し、顔面紅潮や頭痛などが生じます。
したがって、食道がんになりやすい人は、中高年の男性、ヘビースモーカー、高濃度のアルコール多飲者で、赤ら顔になりやすく、熱い食べ物・飲み物を好む人ということになります。これらは、日本に多い扁平上皮がんの主な原因で、欧米に多いバレット食道に発生する腺がんは、逆流性食道炎の慢性化が、主な原因です。
食道がんは、男性はゆるやかに減り、女性は微増するでしょう。
【胃がん】
男女比約2:1、年間死亡者数5万人(2010年)。原因は塩分量の多い食事、ヘリコバクターピロリ感染、喫煙などです。年齢調整死亡率は男女とも大幅に減少していますが、高齢化に伴い罹患患者数は増加しています。
ヘリコバクターピロリ感染により、萎縮性胃炎、腸上皮化生を経て胃がんになることが既に証明されていますが、日本では未だ5000万人の保菌者が居るとされ、そのうち8%の人が胃がんを発症するといわれています。除菌療法の周知・普及とともに将来確実に、減ってきます。
胃がんは、着実に減るでしょう。
【大腸がん】
男女比約1.8:1、年間死亡者数4万6千人(2012年)。原因は、環境的要因として高蛋白、高脂肪摂取、遺伝的要因として、発癌遺伝子(K-ras)の活性化と癌抑制遺伝子(APC、p53)の不活化があります。
がんの発生については、腺腫が癌化するVogelsteinの多段階発癌説(adenoma-carcinoma sequence)と粘膜から直接癌化するde novo pathwayがあります。家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)や潰瘍性大腸炎(UC)から発症することもあります。欧米化した食生活の見直しと便
潜血などの検診普及率の向上により、やがては減じるとみています。
大腸がんは、結腸がんは微増後微減、直腸がんは減るでしょう。
【肝臓がん】
男女比約2.5:1、年間死亡者数2万9千人(2012年)、肝細胞がんが95%で胆管細胞がんが4%。原因はウイルス感染が80%(HCV:65%、HBV:15%)、アルコール、最近は、非B非C型肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が増えています。
B型肝硬変からの肝細胞がん発生率(年率)は3%、C型肝硬変からのそれは8%です。HBV感染は母子感染では100%制御され、B型慢性肝炎に対するインターフェロン、核酸アナログによる治療効果は極めて高いです。
HCV感染は、インターフェロン抵抗性の患者さんにも朗報の経口新薬「ハーボニー」(ソフォスブビル・レディバスビ合剤、著効率95-99%)などが保険収載され、今後ウイルス性肝炎を背景とした肝がんは大幅に減ってくると考えます。
肝臓がんは、すでに減少基調に入り、さらに着実に減るでしょう。
【胆道がん】
胆道がんは、胆嚢がん(男女比約1:2)、胆管がん(男女比約2:1)、十二指腸乳頭部がん(男女比約1.3:1)で、年間死亡者数は1万8千人(2009年)。
胆嚢がんのリスクファクターとして、胆嚢結石(特にコレステロール結石)、胆管非拡張型の膵・胆管合流異常(胆管と膵管が乳頭部の前で合流する先天性の形態異常)、胆管がんのリスクファクターとして、先天性胆道拡張症、胆管拡張型の膵・胆管合流異常、原発性硬化性胆管炎(PSC)、潰瘍性大腸炎、クローン病、ある種の農薬や有機溶剤などがあります。
胆道がんは、あまり変わらないでしょう。
【膵臓がん】
男女比約1.2:1、年間死亡者数3万人(2013年)、この30年間で約3倍に増加しています。危険因子は、糖尿病(突然発症、急性悪化)、喫煙、慢性膵炎、家族歴、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、大量飲酒などがあります。
膵頭部がんが約60%、膵体尾部癌が約30%です。膵臓がんは、発見時すでに切除不能が、50%以上あり、手術成績もここ20年ほど、あまり変わっていません。
膵臓がんは進行するまで症状に乏しく、本来の悪性度の高さに加えて、周囲の組織が乏しいため、容易にがんが周囲に浸潤し、門脈を介しての肝転移率が非常に高いといったことが、
予後が改善されない主な理由です。
他の消化器がんが、不変か減少基調にある中で、唯一膵臓がんは今後益々増えるでしょう。
膵臓がんは、まだまだ増えるでしょう。
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