がん免疫療法の進化
【第1世代】:免疫療法の歴史は、1970年代の体の免疫力を高める免疫賦活剤(BRM療法、Biological Response Modifier Therapy)から始まりました。つまり生体に何らかの反応を変化させる、それを使えば体の免疫反応が強く出るものを使う治療法が誕生しました(非特異的免疫療法の黎明期)。結核菌製剤であるBCGから始まり、キノコ系の担子菌から抽出したクレスチン、レンチナン、また、微生物製剤としては、結核菌から作られる丸山ワクチン、溶連菌を抗生物質ペニシリンで不活化し乾燥させたOK-432(ピシバニール)、現在でも盛んに宣伝されているキノコ由来の健康食品、サメ軟骨、海藻類、穀物抽出製剤などもBRM製剤に含まれます。 クレスチン、レンチナン、ピシバニールは保険収載され、現在でも使われています。
【第2世代】:1980年代に入ると、サイトカインが免疫細胞を直接活性化することが分かってくるとともに、サイトカイン療法が開発されてきました。 サイトカインは、細胞より分泌される強い生体反応をもたらすタンパクの総称で、細胞表面のレセプターに強く結合して、その細胞の中のさまざまな分子反応の引き金を引きます。代表例に、インターフェロンが挙げられ、C型肝炎ウイルス治療薬として、また抗がん剤として、多発性骨髄腫、脳腫瘍、腎がん治療に使われています。また、インターロイキンは、白血球から作り出されるサイトカインで、現在25種類以上があることが知られており、発見順に番号がつけられています。 中でもインターロイキン2(IL-2)は、リンパ球の中でがん細胞を殺せるCTL細胞や NK細胞の増殖・生存に必須の因子で、腎がん治療に保険収載されています。
【第3世代】:IL-2の発見後、直接リンパ球を活性化できること、その活性化リンパ球はがん細胞を殺すことが見出され、がんを殺せる免疫細胞を体外の人工的な環境下で培養して急速に増殖させ、それを体内に戻してがん治療を行うという養子免疫療法が開発されました。代表的なものとして、活性化リンパ球(LAK)療法とナチュラルキラー(NK)細胞療法があります。
ここまでは、体全体の免疫力を強化する、いわゆる非特異的免疫療法で、残念ながら大きな臨床効果は得られませんでした。
【第4世代】:1990年代になると、がん細胞だけに作用する免疫療法「特異的免疫療法」が開発され、ペプチドワクチン療法はその旗印となりました。例えば、MAGE遺伝子は1991年に発見されたがん抗原蛋白ですが、この蛋白のごく一部のペプチドが、がん細胞表面のMHC class I分子の上に載って細胞表面に出ていれば、細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte, CTL)が「異常」と認識し、がん細胞を殺すことがわかりました。
【最新世代】:2000年に入ると、樹状細胞(Dendritic cell)が、「がんに対する免疫システムの司令塔」として非常に重要な働きを担っている免疫細胞であることがわかってきました。樹状細胞の働きは、1)体の中で、がん細胞などの異物(抗原)を見つけ出し、2)その異物(抗原)を細胞内に取り込んで認識(貪食)し、3)認識した情報(特徴)を周りのリンパ球などに伝達し、この特徴を持つ細胞めがけて攻撃するよう命令を出す。この働きをがん治療に応用したのが樹状細胞ワクチン療法です。まず、樹状細胞の元となる細胞(単球)を患者さんの血液中から取り出し、体外で人工的に樹状細胞へと成長・活性化させ、さらにがんの目印(がん抗原)を認識させます。こうして免疫の司令塔として確実に働くようにした樹状細胞ワクチンを患者さんに投与し、体内で確実にがんに対する免疫反応を起こさせるのです。
現在の免疫療法は、副作用がほとんどなく、がん細胞をターゲットとした特異的な、免疫療法です。保険診療ではなく、費用も高価です。現状は、あらゆる保険診療を行い尽くして、他に治療法がないから、選択されるケースが多いようです。したがって、最新の免疫療法でも、奏効率(この場合進行しないケースも含めて)は3割ほどです。理想的には、保険診療と相補的に行う、例えば、消化器がんの手術後に、再発の可能性の高い期間に絞って行う、手術療法、放射線治療、化学療法と併用して行う、先進医療がん保険で補てんする、などが望ましいのではと考えます。
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