日本肝胆膵外科学会高度技能専門医
日本肝胆膵外科学会高度技能専門医は取りにくい資格の一つです。理由は、2つあり、まず第1に、「日本肝胆膵外科学会修練施設で術者として高難度肝胆膵手術を最低50例する必要があること」、第2に「無編集の手術ビデオを提出する必要があること」です。
私は2003年に日本肝胆膵外科学会高度技能指導医をとりましたが、この制度では、第2の手術ビデオの提出は必要ありませんでした。だから、修練施設での手術実績さえあれば取得できたのです。
まず第1の「日本肝胆膵外科学会修練施設で術者として高難度肝胆膵手術を最低50例する必要があること」が、なぜハードルが高いかを説明しましょう。
日本肝胆膵外科学会の修練施設が少ないです。この施設認定を取るためには、最低1年間で、高難度肝胆膵手術を30例以上しなければいけません。
高難度肝胆膵手術とは、下記のような手術です。
高難度肝胆膵外科手術
肝胆道手術
肝三区域切除
肝葉切除および拡大肝葉切除
肝中央二区域切除
区域切除;後区域、前区域、内側区域 (外側区域は除く)
亜区域切除(S1,S2,S3,S5,S6,S7,S8,であり、原則として非定型的部分切除は除く)
肝移植レシピエントの移植手術
肝移植ドナーの肝切除
胆管切除を伴う肝切除(ただし、肝葉切除および肝S4a+S5切除以上)
胆嚢胆管切除+胆管消化管吻合(先天性胆道拡張症に対するもののみ)
膵臓手術
膵全摘術(残膵全摘も含む)
膵頭十二指腸切除(幽門輪温存を含む)
膵体尾部切除(D2リンパ節郭清を伴った膵癌に限る)
膵中央切除
十二指腸温存膵頭部切除
膵頭温存十二指腸切除
Ventral pancreatectmy
下膵頭切除
Beger手術、
膵移植レシピエント手術
膵移植ドナーの膵切除
血管合併切除再建
門脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
肝部下大静脈再建を伴う肝胆膵領域の手術
肝静脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
上腸間膜動脈切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
肝動脈(腹腔動脈系)切除再建を伴う肝胆膵領域の手術
こういった手術を30例以上できる施設になるためには、急性期基幹病院や大学病院で、かつ肝胆膵外科のスペシャリストが数人いる必要があります。そして、術者として50例以上こなす必要があります。中堅どころの外科医は、よく出張がありますし、難易度の高い肝胆膵の手術をオペレーター(術者のこと)になる機会は、よほど恵まれていないと連続して回ってきません。こういったことで、大きなフィルターがかかってきます。
次に、「無編集の手術ビデオを提出する必要があること」。これも、難関です。対象手術は、肝右葉切除、肝左葉切除、肝区域切除、肝亜区域切除、膵頭十二指腸切除ですが、脂がのっている消化器外科医でも、初めから終わりまで、全くミスなく、途切れのない手術はまずできません。もちろん、採点者はそれを加味して、採点するわけですが。そういったことで、対象手術の術者となる時には、必ずビデオ録画しておく必要があります。その中で、最も良い出来の手術を、ピックアップし、提出することになります。
こうやって、2011年度より始まった日本外科学会高度技能専門医取得者は、2011年:12人、2012年:19人、2013年:30人、2014年:31人、2015年:50人、5年間で漸増傾向にはありますが、142人です。
この人たちは、日本消化器外科学会に入会している外科医が20,512人(2015年)ですので、日本人一般・消化器外科医の0.7%となります。
肝胆膵外科にかける熱意があり、モチベーションがあり、手術もうまく、さらに運にも恵まれている、といえます。
したがって、難治のがんが多い肝胆膵がんの手術を受ける際には、日本肝胆膵外科学会修練施設、高度技能指導医、とくに高度技能専門医の有無は参考になります。
また、これらの手術は原則として、腹腔鏡ではなく開腹で受けられることを勧めます。がんの手術は、安全性と根治性が常に、審美性(見た目の良さ)、低侵襲性(体をあまり傷つけないこと)より大事なことです。