胃癌肝転移のご相談

胃癌肝転移のご相談

【質問】:はじめまして。

 

3月半ばに父親が胃癌と診断されました。肝臓に転移している為、手術は不可能だと告知されました。60代後半です。最初の主治医の先生には「何もしなければ余命1年位です」と本人と母親が言われたようです。

 

その後直ぐに入院し、TS-1(3週間)+シスプラチンを投与されましたが、副作用も殆ど無く、予定より早く退院出来ました。

 

1クール目終了後、転勤の為主治医の先生が替わり、同様の治療で2クール目に入り、終了後のCTと内視鏡検査では緩やかながら良好であると診断されました。特に肝臓に転移した腫瘍は縮小しているようでした。

 

副作用としては味覚障害が強く出ましたが、食欲は旺盛で不味いと言いながらも好きなものは食べれるようでした。3クール目も同様の治療を行い、シスプラチン投与後、退院するまでは慣れてきたせいか、今迄で一番楽だったと話していましたが、退院翌日に痛みが強くなり
救急車で搬送。その後、オキシコンチン錠とオキノーム散を処方され、痛みは落ち着きました。

 

最近は味覚障害が続いて食欲が落ち、高熱が続くようになりました。主治医の先生からは、TS-1の副作用が強いようなので、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカンに抗がん剤を変えようと提案されました。

 

体力が落ちており副作用が不安なので、父が不在の所で、母が先生に聞いたところ、「何もしなければ1ヶ月もたないでしょう」という言葉。延命の為に抗がん剤を変えると言う事でした。

 

残された時間何か出来ないかと、インターネットで色々調べた所、貴サイトに辿り着きました。記事を読ませて頂き、現在父に施されている治療は、胃癌に対する標準的な治療である事が分かりました。完治しない事は本人も承知していますが、僅かな時間しか残されていない事は知りません。新しい抗がん剤の副作用に対するリスクの説明も、「それ程ではない」と言う軽い言葉でした。その為もあり、本人は新しい抗がん剤を使用する事に前向きです。

 

 

家族としては辛い副作用で更に体力を奪われるのは見るに耐えませんが、治そうという気力を支えてやりたい気持ちはあります。しかしそれが、主治医の言う「短期間の延命治療」というならば、本人の意思とは違うような気がしてなりません。

 

数パーセント以下の可能性であっても、外科的に胃の切除等、「短期間の延命」でなく、多少でも希望がもてる治療法は無いものでしょうか?

 

現在治療を受けている病院は日本消化器学会から、専門医制度指定修練施設の認定を受けているようです。主治医は内科の先生ですが、この場合でもセカンドオピニオンとして同病院外科医の先生に診断を受けるのは意味ある事なのでしょうか?同じ病院内のシステムとして機能しているものなのでしょうか?

 

いきなり長文での質問大変恐縮です。
本日、父は入院しており、何かやれる事は無いかと考えています。 お時間あれば、ご返答頂ければ幸いです。

 

【お答え】メール拝見しました。

 

初回診断時、肝転移を伴う胃癌という事で、ステージIVとなり、胃癌治療ガイドラインとも照合し標準的には全身化学療法の選択は妥当です。初回化学療法の薬剤(シスプラチン+TS-1)についても妥当な選択と考えます。

 

3クール終了後、他の薬剤に変更しようという提案を受けた中で、少し気になるのが、
1)何らかの画像(CTなど)で、現状の化学療法で癌が制御されているか否かを確認したか。
2)副作用がグレード3以上のものであるか。

 

通常化学療法を変更する場合は、上記の1)または2)の条件が原則となります。
化学療法が奏功すれば、この場合の奏功とは、癌が消失、縮小、不変までを指し、その場合、副作用がグレード3以上にならなければ、継続するという原則があります。

 

味覚障害は、確かにTS−1の消化器系の副作用の一つですが、それだけでは、化学療法剤を変更する根拠にはなりません。上記1)または2)が確認されているならば、化学療法剤の変更は妥当で、パクリタキセル、ドセタキセルなどのタキサン系、イリノテカン(CPT−11)は第2選択剤として妥当です。

 

現時点での、外科的介入についてですが、正直厳しいと思います。考えられるのは、減量手術(胃癌のみ切除する)だと思いますが、有効性に関する科学的根拠はまだありませんし、体力的に手術に耐えうるのかといったことからも、実際的ではないように思います。

 

タキサン系、CPT−11といった化学療法も、奏功性が示されている一方で、副作用もあり、何もしない場合の余命1か月と主治医から言われたことを考慮すると、化学療法を継続するかは本人の意志を最優先するのが良いと思います。

 

他の治療は、自由診療で免疫療法などありますが、確実なエビデンスはありません。ただし、患者さんや家族にとっては、手を尽くしたというある種の充足感はあるのかもしれません。

 

免疫療法を拡大すれば、いわゆる機能性食品もその範疇に入ってきます。

 

かかっていらっしゃる病院は、ハード、ソフトともにしっかりしており、ほぼ問題ないと思いますし、内科医も必要であれば外科にコンサルトするとおもいます。大事なことは、今ある現状で、何ができるのか(何もしない(緩和療法のみ)、化学療法する、ホスピスを検討する、免疫療法を試す、自宅療養する、在宅緩和医療をする、など)、選択肢を緩和ケアチームや主治医に提示してもらい、医療者とともに考え、御本人、ご家族で現状を認識された上で、話し合われて、生活の質(QOL)をできる限り保ちながら療養するには、あるいはご本人の人生観も含めて、選択肢の中で、何を選択して行くかということを、主体的に決めていかれることが大事ではないかと思います。

 

TS-1+CDDPによる化学療法で、原発巣が若干増悪(PD)し、幽門狭窄が危惧されること。肝転移巣は不変(SD)であること、TS-1の副作用が若干目立っていることより、第2選択肢であるドセタキセルの3週投与1週休薬のレジメンに移行されたことはスタンダードな選択肢だと思います。

 

現状から、総力戦、つまり保険診療内の化学療法、幽門狭窄に対する外科治療(減量手術、腸瘻造設術など)の適否、補中益気湯や十全大補湯などの漢方サポート、機能性食品や緩和医療などなど、如何にQOLをあげて療養するかといったことになると思います。

 

様様な選択肢の中で、それぞれの分野(化学療法、外科治療、補完代替医療(漢方、機能性食品、鍼灸マッサージなどなど)、漢方、緩和、療養の拠点(自宅、病院、ホスピスなどなど))で吟味しつつ、その人(患者)の考え方、哲学、家族の考え方に合わせて、できることを、過不足なく、充足感をもてるようにやっていくことが、本来の在り方だと思っています。

 

最後に、あくまでもメールのみのお答えにつき、推論の域を超えないこと、“診察せずして診療すべからず”という大原則があること、最終判断は自己責任でということをご理解ください。

 

消化器(胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓)がんに関してご相談ある時は、お問合せよりお願いします。直接連絡希望の時は、住所、氏名、電話番号まで記入の上、本文に直接連絡希望と明記ください。守秘は徹底します。守秘した上で、本ポータルサイトに掲載する可能性がある事、返答が遅れる可能性がある事、返答のない可能性がある事をご理解いただいた上で、ご相談ください。

 

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