消化管穿孔
消化管穿孔とは、消化管に何らかの原因により孔があき、内容物が腹腔内に漏出して腹膜炎を引き起こす病態です。急性腹症の代表的疾患であり、早急な診断と治療を必要とします。
原因として、上部消化管では胃・十二指腸潰瘍、胃がん、下部消化管では大腸がん、大腸憩室などが多く、腹部外傷や大腸カメラなど医原性の場合もあります。
上部と下部どちらかが危ないかと言いますと、圧倒的に下部消化管穿孔が危ないです。
【上部消化管穿孔】:胃・十二指腸潰瘍の原因は、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)とピロリ感染が二大原因です。未治療のまま、進行し、ある時突然激しい腹痛を生じます。胃がんの穿孔は、潰瘍に比べ、頻度的には、少ないですが、あり得ます。穿孔は、十二指腸球部(十二指腸の始まり)前壁に起こりやすく、発症と同時に突然の上腹部痛と、腹膜刺激症状(おなかを押えたときより離した時の方が痛みが増強する症状)を伴います。
この場合、直ちに医療機関を受診もしくは搬送され、腹部X線検査と腹部CTが行われます。これらの検査では、free airが見られます。通常、腹腔内にはairはなく、消化管の穿孔に伴い、ガスが移行するわけです。内視鏡検査は、ケースバイケースです。内視鏡は、穿孔部位を拡大し、病態を悪化させる危険をはらんでいます。一方で、穿孔部位が不明の場合や、治療方針(内科的治療 vs. 緊急手術)を検討するために、少量送気、短時間を原則として施行する場合もあります。
胃・十二指腸潰瘍穿孔の治療は、PPI(プロトンポンプインヒビター)が出る前までは、ほぼすべてに緊急手術が行われていました。PPIの出現と共に、保存的治療で可能な場合も出てきました。保存的治療は、絶飲食、補液、経鼻胃管留置、抗菌薬投与、PPI経静脈投与となります。穿孔部に大網(胃の大湾から伸びた、おなかの中の脂肪組織)が寄ってきて、ふたをし、併せて、胃酸分泌を抑え潰瘍を治す処置(絶食、経鼻胃管、PPI)、腹膜炎治療(抗菌剤)を行うというものです。
ただし、この場合でも病態が不変または増悪する場合、速やかに外科治療に移行します。手術は、以前は広範囲胃切除と言って、胃酸分泌領域を含む胃の3分の2ほど切除していましたが、近年はそこまであまりしません。なぜなら、PPIにて胃酸分泌は制御され、潰瘍がほとんど治ってしまうからです。穿孔部をトリミング(補正すること)して、単純縫合閉鎖し、補強の意味合いで、大網を充てんします。そして、おなかの中を10Lの生理食塩水で洗い、ドレーンを1〜3本、おなかの低い場所に留置します。
最近では上部消化管穿孔で命を落とす方は、ほとんどいなくなってきました。
【下部消化管穿孔】:下部消化管穿孔の原因は、大腸がん、大腸憩室などが多く、腹部鈍的外傷や大腸カメラなど医原性の場合、その他にも、宿便が硬くなり、その口側に孔が開く、虚血性腸炎のひどいもの、etc.いろいろあります。
下部消化管穿孔の場合、症状が重篤化しやすいです。血液検査では、白血球はむしろ低下することが多いです。これは病変部に白血球が集積し、骨髄による白血球の生成が追い付かないからです。腹部X線では、free airもあまり見られないことが多く、診断には造影CTが必須となります。
治療は緊急開腹手術です。手術の概略は、病変部を切除し、吻合は、する時といない時(人工肛門)があります。その見極めは、病変部近傍の腸管のコンディションと全身状態です。腸管の状態が悪いと、吻合(つなぐこと)しても、縫合不全を起こす割合が増えます。全身状態が悪いと、なるべく早く手術を終了させた方が救命率は高まります。もちろん、腹腔内を大量の生理食塩水で洗浄します。そして、ドレナージです。
手術が終了しても、予断は許しません。ショックから離脱できるか、敗血症から離脱できるかが、キーポイントとなります。強い抗菌剤に加えて、免疫グロブリン、血液浄化法(血液を体外に誘導して、細菌や毒素を浄化し、体内に戻す方法)を併せて行うことが多いです。
穿通(せんつう)という医学用語があります。穿孔がオープンに孔が開いたことに対して、穿通は孔は開いたものの、組織によって“ふた”がされた状態のことです。したがって、汎発性腹膜炎とはならず、限局性腹膜炎にとどまります。大腸憩室に多く見られます。ただし、この場合も、下部消化管穿通では、早期手術が必要となってきます。
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