アッペ、ヘルニアのスタンダード手術
アッペとはappendectomy(虫垂切除)の略です。ちなみに、-ectomyは切除を意味する医学用語の接尾語で、虫垂(appendix)を切除(-ectomy)する=appenndctomyとなります。胃切除はgastrectomy、食道切除はesophagectomyなどとなります。アッペは、1894年にMcBurneyが開腹虫垂切除を報告して以来、100年以上にわたり虫垂炎治療のgold standardとして行われてきました。
アッペの概略は、Mcburney点を中心に5cm程の交叉切開または傍腹直筋切開を加え、腹腔内に到達して虫垂を見つけ(ステップ1)、腹腔外に誘導し、虫垂間膜および虫垂動脈を処理(ステップ2)し、虫垂根部をペアン鉗子で把持(ステップ3)した後、切離結紮(ステップ4)し、その断端を盲腸内に埋没(ステップ5)するというものです。
実に簡単そうです。簡単な場合もあります。一方で実に困難な場合もあります。カタル性から蜂窩織炎性虫垂炎までは、概して簡単で、初心者外科医の登竜門となります。壊疽性、穿孔性、膿瘍形成、後腹膜への穿破例などは概して困難となります。もちろん、手術前にある程度、予測はつくのですが、予想以上に炎症がひどく、時に回盲部切除に至ることもあります。外科医は虫垂炎の手術で一度は痛い目にあっています。
ヘルニアは、いろいろなものがありますが、ここでは外鼠径ヘルニアに限定します。そもそもヘルニアとは何ぞや?ということになりますが、主に3つの要素から形成されます。
1) ヘルニア門:ヘルニア嚢に包まれたヘルニア内容が出てくる門のこと、外鼠径ヘルニアでは内鼠径輪。一般的にヘルニア門となる部位を抵抗減弱部と言います。
2) ヘルニア嚢:ヘルニア内容を包んでいる膜のこと、外鼠径ヘルニアでは壁側腹膜。
3) ヘルニア内容:ヘルニア嚢に含まれている内容のこと、外鼠径ヘルニアでは小腸、大網、女性附属器など。
外鼠径ヘルニアの手術を行うために、解剖の知識は、もちろん必須ですが、医学生の時はともかくとして、外科医になってもなりたての時は、ほとんどわかりません。名前の付いた解剖学用語があまりにも多いこと、層が入り組んで複雑なこと、などなど。
したがって、外鼠径ヘルニアの手術を行うには、ランドマークを確認しながら手順よくやらないと、迷宮に入ってしまいます。
外鼠径ヘルニアのスタンダード手術は、1980年代までは、脱腸を戻し(ヘルニア嚢と内容を腹腔内に還納し)、ヘルニア門を閉鎖し、再発しないように補強するといった内容で、後壁補強の違いによりBassini法、Ferguson法、Mercy法、McVay法、Iliopubic tract repair法などいろいろあります。
ただこれらの手術の問題点として、術後に違和感や痛みが残りやすい、そして最たる問題点として、手術後しばらく行動が制御(3か月は重い荷物を持ったらいけないとか)され、どんなに上手な外科医が手術をしても約10%は再発してしまうということでした。
1990年代に入り、ポリプロピレン性メッシュなどの医療材料による、ヘルニア門(抵抗減弱部)の補てんが主流になってきました。Mesh plug法、Lichtenstein法、Kugel法(私は主にこの手法で行っています)、Bilayer patch device法などなど。これにより、患者さんは術後の行動制限から解放され、初心者外科医やあまり上手く無い外科医が手術をしても、術後の違和感や痛みは少なく、再発は滅多に起こらないようになってきました。
メッシュ補強のコンセプトはテンション・フリー、いわゆる緊張をかけず、締め上げないことです。異物が体内に入りますが、ヘルニアの治療理論にはよくマッチした考え方です。
ただ難点もあります。異物ゆえに感染が起こると、非常に厄介で、メッシュを除去するしか方法はありません。ヘルニア嵌頓で小腸壊死を伴っているときなど、この手術はできません。だから、メッシュ補てんが主流といえども、外科医は従来の手法を身に着けておく必要があります。
アッペ、ヘルニアのスタンダード手術は、いずれも初心者外科医の登竜門です。ただし奥も深いです。これらを身に着けたうえで、現在主流になりつつある、腹腔鏡手術へとステップアップしていくことになります。
腹腔鏡下鼠経ヘルニア根治術(TransーAbdminal Pre-Peritoneal repair, TAPP)は、保険収載され現状では、開腹歴のない方に対しては、第1選択となりつつあります。利点は二つあり、審美性に優れ術後の痛みの少ないこと、対側にもある場合一期的に両側修復ができること、があります。なので現在はこの手術を主流に行っています。
膵体尾部がんの手術
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