日本の長寿は国民皆保険制度と一病息災によってもたらされた
日本の平均寿命は男性が80.5歳、女性が86.8歳（2014年）で男性は世界第3位、女性は3年連続世界一です。これは何によってもたらされたかというと、私は、国民皆保険制度と一病息災だと考えています。
国民皆保険制度は、日本国民誰もが、ほぼ同等の医療を、いつでも、どこにいても、安価に、享受できるシステムで、諸外国から見れば、「信じられない！」に等しいシステムです。例えば、誰かが、何処かで、倒れていた場合、日本では、ほぼ必ず、誰かが、救急車を呼び、無償で、医療機関に運ばれ、一定水準の淀みない診断と治療が滞りなく行われます。米国のような先進諸国でもこれは保障されません。生活保護受給者でも、何がしらの症状があれば、ほぼどの地域でも、しっかりとした診断と治療がとり行われます。身内や近所の誰々さんが、「最近調子悪いみたいよ」となれば、必ず、「とりあえず病院に行ってみよう！」となります。
一病息災を辞書で引くと、「病気もなく健康な人よりも、一つくらい持病がある方が健康に気を配り、かえって長生きするということ。息災は健康であること、身にさわりのないこと。」となっています。確かに一理あります。それ以上に、メリットがあると私は思っています。人間50歳を過ぎると、何がしらかの診断がつく問題を背負うのが普通です。更年期障害、高血圧、貧血、高脂血症、糖尿病、逆流性食道炎、慢性胃炎、大腸ポリープ、などなど、実は何でもいいんです。医療機関に定期で受診し、何がしらかの症状があれば、保険診療内で、精密検査が行われます。これが、致死的疾患の早期発見につながり、平均寿命を押し上げているものと考えます。
外科臨床の場でよく耳にするのが、「これまで健康だったのに。」「1回も病気をしたことがなかったのに。」「検診を受けていたのに。」などです。これらは何を意味しているかというと、有症状時にがんが発見された場合、既に手遅れとなる時がままあるということです。
「医者の不養生」という言葉があります。辞書によると、「人に養生を進める医者が、自分は健康に注意しないこと。正しいと分かっていながら自分では実行しないことのたとえ。」となっていますが、実は少し違います。医者の喫煙率、大酒家は少なく、バランスの良い食事、適度な有酸素運動は取り入れることはわかっていますし、大方の医者はそうしていると思います。ただ、実行していないことがあります。致死的疾患の早期発見をする努力です。家族歴や生活習慣によって、医者は遭遇する確率の高い致死的疾患を理解しています。ただ、怖いのです。この検査をして、肺がんが見つかったら、膵がんが見つかったら、冠動脈疾患が見つかったら、どうしようと考えるのです。もちろん、皆がそうではありませんが、○○大学の外科教授が、非常に進行したがんと、初診時診断されることも時にあります。
検診率は、日本は先進諸国の中でほぼ最下位です。一方で、平均寿命は世界のトップレベルです。一般的な検診の有用性に懐疑的にならざるを得ません。
一病息災のもとに、医療機関に定期的に通院し、少しでも症状あらば、保険診療内で精密検査を受け、早期に対処する、これが日本人に長寿をもたらした、根底だと考えています。
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