膵臓がん診断治療のシミュレーション
消化器がんの診断治療はどういった過程でなされていくのかについて、膵臓がんの場合で考えてみたいと思います。
まず、膵臓がんが発見されるシナリオとしては、1)検診(人間ドック、PET、アミノインデックス(AICS)などの血液検査を含む)、2)急に糖尿病になる、糖尿病の悪化、3)なにがしらの自覚症状があり医療機関を受診する。主にこの3通りがあります。
1)検診、人間ドックは、通常、腹部超音波検査(エコー)で膵臓に腫瘤を指摘されます。この場合、痩せた方でしたら、0.5~1cm以上あれば病変の同定は可能です。
PETでは、1cm以上であればほぼ可能です。そして精査、つまり医療機関での本格的な検査になります。
2)糖尿病の急速発症や糖尿病の悪化は、膵臓がんを示唆する所見となりえます。これは、医師全員が知っているわけでもなく、糖尿病専門医にかかっていれば、膵臓がんが疑われ、精密検査になります。
3)膵臓がんの自覚症状は、早期は出にくいです。また、膵臓がんができる場所によって症状が変わってきます。
膵頭部に出来ると、褐色尿、ウサギの糞のような灰白色便、皮膚掻痒感(かゆみのこと)、黄疸(眼球結膜、白目のところが真っ先に黄色くなってきます)が症状として出てきます。これは、下部胆管や十二指腸乳頭部に浸潤し、胆汁の流れをふさぐ、閉塞性黄疸となるからです。
一方、膵体尾部に出来ると、体重減少、腹痛、背部痛といった症状が出てきます。膵臓がんの場合、症状が出てきて、医療機関を受診したとき、5割は、切除不能の進行癌であることが多いです。
精密検査は、造影CTや腫瘍マーカー(CA19-9、CEAなど)が必須であり、ここで、進行度がほぼ明らかとなります。さらに医療機関によっては、MRI、超音波内視鏡検査(EUS、内視鏡を胃・十二指腸まで挿入し、超音波によって腫瘍の性質や局所への浸潤の有無を確認する検査)、超音波内視鏡下針生検(EUS-FNA)、PET(主に遠隔転移をみるため)などが追加されます。
膵臓がん検査では、胃がんや大腸がんのように組織採取は必須ではありません。なぜなら、組織採取は手技的にやや困難で、ルートインプランテーションといって、針生検の時に腫瘍をまき散らせる可能性があること、造影CTなどで質的診断がほぼ可能であること、といった理由からです。
ステージが決まると、膵臓がん診療ガイドラインを基に、治療法が決定され、さらに、引き続いて、膵頭部がんで閉塞性黄疸を伴っている場合、減黄術(つまった胆汁を体内外に出してやること)が行われます。減黄術にはいくつかあります。
現状で多いのは、内視鏡的チューブステント留置(ERBD、内瘻術)、内視鏡的経鼻胆汁ドレナージ(ENBD、外瘻術)のいずれかです。
今も時々行いますが、以前はPTCD(Percutaneous transhepatic cholangio-drainage)といって、腹部エコーガイド下で、拡張した肝内胆管を穿刺し、チューブを留置する手技が良く行われていました。
膵臓がんの治療方針としては、1)手術、2)化学療法、3)化学放射線療法の3つがあります。最近では、局所に留まっている場合、重粒子線治療なども注目を浴びてきています。
膵癌診療ガイドラインより抜粋
進行度(ステージ)IIIまでは、手術を行うことは、世界的にほぼ異論のないところですが、ステージIVaは切除可能である場合と切除不能である場合があります。
膵臓がんは発見時ステージIVaが多く、この鑑別に苦慮することがしばしばあります。ステージIVaで切除不能となる場合は、近接した動脈(総肝動脈など)に浸潤している場合や腸間膜根部に浸潤している場合など。最近では、審査腹腔鏡と言って、腹腔鏡でこれを見極めることも時に行われています。ステージIVaの膵臓がんは“borderline resectable”としばしばいわれています。
ステージIVaまでの切除可能膵臓がんに対しての標準手術は、膵頭部がんに対しては、膵頭十二指腸切除、膵体尾部がんに対しては、膵体尾部脾切除が一般的に行われます。
ステージIVaの切除不能膵臓がんに対しては、化学放射線療法がおこなわれます。ステージIVb(肝臓転移や遠隔転移がある場合)は化学療法がおこなわれます。化学放射線療法が行われたステージIVa膵臓がんでダウンステージ(腫瘍縮小効果がありステージが下がること)が得られた場合、根治的手術を引き続き行うこともあります。
膵臓がんの手術は原則的に開腹で行われます。腹腔鏡での手術は保険収載されていません。また、同様の術式(膵頭十二指腸切除や膵体尾部脾切除)であっても、膵臓がんに対する手術は、他の腫瘍に比べて難しく、熟達した技量が必要です。
膵臓がん家系、ヘビースモーカー、糖尿病、IPMN保持者、などは膵臓がんのリスクファクターです。膵臓がんは、まだまだ死因として増え続けているがんで、最も難治の消化器がんです。はっきり言って、現状では、非常に早期で発見されないと助からないがんと言えます。
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