膵臓がんの予防、早期発見、症状、診断、治療

膵頭部領域がんの手術

膵頭十二指腸切除

 

膵頭十二指腸切除(Pancreaticoduodenectomy、PD)とは、膵臓の頭部、十二指腸、胆嚢および中下部胆管を一括に切除する術式です。1935年Whippleが世界で初めて行い、欧米では今もWhipple手術と呼ばれることが多いです。

 

適応となる疾患は、膵頭部がん、中下部胆管がん、十二指腸乳頭部がん、十二指腸がんといった膵頭部領域の悪性腫瘍に加えて、膵管内乳頭状粘液性腫瘍といった低悪性度腫瘍や腫瘤形成性慢性膵炎などにも適用されます。

 

消化器外科医にとりまして、PDは一つの到達目標となる手術で、この手術がスーパーバイザー(指導者)なしで、完遂できれば、一人前の消化器外科医と言えます。高難度かつ高侵襲の手術である理由として、1)切除される臓器が多いこと、2)膵液、胆汁、食べ物の流れ道を作る(再建)必要があること、3)門脈の切除再建(血管外科の応用)が必要な時があること、などなどがあります。

 

PDは100人の術者がいれば、100通りのやり方となります。これはどういうことかというと、どこから始める?(Kocherの授動から始める、上腸間膜動静脈の露出から)胃はどこで切る?(全胃を温存する=PPPD、幽門輪から2cm口側で=SSPPD、胃を半分くらいのところで=通常のPD)、膵臓は何で切る?(メス、電気メス、超音波凝固切開装置)、胆管はどのレベルで切る?空腸はどのレベルで切る?その時第1空腸動脈は温存する?切除する?

 

切離の過程で、上記の選択肢があり、再建に移行すると、残った膵臓は空腸(世界の約70%)とつなぐ?胃(同約30%)とつなぐ?陥入法で?膵管空腸粘膜縫合で?糸はどのサイズの何を使う?ステントは?胆管空腸吻合はどうやって?消化管再建はどうやって?ドレーンは何本入れる?

 

まあこんな具合に、その流れの時々でいろんな選択肢があります。逆に言うと、自分のあるいは施設の一貫したやり方を徹底的にマスターしなければいけないということになります。

 

私は200例程の術者経験ですが、切除再建をいろいろ見ながら、やりながら、切離は胃(幽門輪から2cm口側、SSPPD)、胆管、膵(超音波凝固切開装置)、空腸の順に、再建は膵胃吻合(4-0プロリン8針の陥入法、ロストステント)、胆管空腸吻合(胆管が1cm未満はステント有、1cm以上はステント無し)、前結腸性の胃空腸吻合AL法、小弯3針吊り上げ、ブラウン吻合なし、腸瘻チューブ留置は50%位、ドレーンは1本で行っています。

 

開腹歴なく、痩せた患者さんで、早期がん-低悪性度腫瘍であれば3時間30分くらいで終わることもあります。ただし、門脈浸潤が疑われる膵頭部がん、慢性膵炎は非常に時間(8時間から12時間)がかかります。

 

術後合併症で一番怖いのは、膵液ろう(膵液が漏れること)です。膵液は時に動脈をも浸食し、胃十二指腸動脈断端からの腹腔内大量出血を招くこともあります。

 

膵頭部領域がんの患者さんは、しばらくは減らないと思っています。膵頭十二指腸切除を受ける場合、日本肝胆膵外科学会高度修練施設で高度技能指導医または高度技能専門医により手術を受けられるのが、一般的には安全かつ安心です。

 

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