縫合不全 -消化液・胆汁・膵液の漏れ-

縫合不全 -消化液・胆汁・膵液の漏れ-

消化器がんの外科手術は、再建(さいけん)を伴う手術が多いです。食道、胃、大腸、肝臓(胆管合併切除を伴うもの)、胆道、膵手術のいずれにも再建が伴います。

 

再建には、食べ物の通り道の消化管再建、胆汁の流れ道の胆道再建、膵液の流れ道の膵再建とざっくり、3種類あります。

 

消化管の再建は、食道がんに対する食道切除であれば、頸部食道(残った口側の食道)と胃管(胃を細長くすることによって作成された代用食道のこと)をつなぐことになります。

 

胃がんに対する幽門側胃切除であれば、残胃と十二指腸(ビルロートI法)または残胃と空腸(ビルロートII法或はルーワイ法)をつなぐことになります。胃全摘であれば、食道と空腸をつなぐ(通常はルーワイ法)ことになります。

 

結腸がんに対する結腸切除、直腸がんに対する前方切除であれば大腸どうしをつなぐことになります。こういった手技を総括して、吻合と言います。吻合には手縫いと器械吻合があります。手縫い法とは、針糸を用いて、直視下に縫ってつなぐ方法です。器械吻合とは、器械を用いて自動的に“ガッチャン”といった感じで、吻合することです。

 

消化管再建で、手縫い法であれ、器械吻合であれ、つないだところから消化液または食べ物が漏れることを縫合不全と言います。

 

縫合不全の原因は、テクニカル的なミス、虚血(吻合部に血が通いにくい状態)、緊張(テンション)と大きく3つあります。これが起きますと、食物を口から摂取することができません。

 

消化液の漏れは、腹腔内に溜まり、白血球が集まり、膿瘍(うみ)形成に至ります。これが熱源となり、腹痛の原因となります。こういった手術時には予防的にドレーンという管を、縫合不全が起こった時に溜まりやすい部位に留置しておきます。

 

通常は、ドレーンが効いて、一時的な絶飲食、抗生剤投与で大丈夫ですが、ドレーンが効かない時やドレーンを抜去した後に、縫合不全が発生すると厄介になります。場合によっては、再度開腹してドレナージ(膿瘍を除去して、腹腔内を生理食塩水で洗浄して、新たにドレーンを留置する手技)を行う必要があります。

 

縫合不全の発生しやすい管腔臓器は順番に、食道>直腸>胃>結腸>小腸となります。したがって、食道がんの手術時には、腸瘻(ちょうろう)チューブといって、小腸内に栄養剤を注入できるチューブを留置するのが一般的です。他の消化管がんでは、腸瘻チューブは留置しません。

 

小腸同士の吻合では、まず縫合不全は起こりません。小腸は血流が豊富で、緊張がかかりにくいことが根拠です。じゃあどういう風に治る(創傷治癒)かと言いますと、膿瘍に管を入れ、膿瘍を体外に排出し、栄養の改善とともに、膿瘍腔が縮小し、ドレーンの通り道がトンネルのようになり(瘻孔化、ろうこうか)、やがて塞がります。最後は栄養管理が最も重要となります。

 

胆道再建とは、胆管と腸管(通常は小腸)をつなぐことです。胆汁は十二指腸の乳頭部から通常は消化管に入っていくわけですが、肝外胆管を切除する手術(膵頭十二指腸切除、肝門部胆管がん手術など)では、胆管と空腸をつなぎます。縫合不全は、胆汁の腹腔内への漏出(ろしゅつ)です。ドレナージがしっかり効いていれば、さほど問題となりません。絶飲食にする必要は普通ありません。ただし、ドレナージが不良であれば、胆汁性腹膜炎となり、再手術の必要が生じてきます。

 

膵再建とは、膵頭十二指腸切除や膵中央区域切除などで、残った膵臓の膵液を消化管に流し込む手技です。

 

世界的には空腸に流し込むのが7割、胃に流し込むのが3割で行われています。膵液ろう(膵液が腹腔内に漏れる事)が最も怖い縫合不全です。

 

これは、膵再建を必要としない、膵体尾部切除でも起こります。膵液は、時として血管をも溶かします。膵手術後しばらくたって、動脈破たんのため大量出血を起こすことも稀にあります。そして、膵液ろうは、軽症のものを含めると起こりやすいです。膵液ろうをいかに防ぐか、膵液ろうが起こった時如何に対処するか、これは世界の消化器外科医にとって永遠のテーマと言っても過言ではありません。

 

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