困難な手術
技術的に難易度の高い手術です。この場合相対的困難な手術と絶対的困難な手術と二通りあると思っています。
相対的難易度の高い手術とは、外科医Aにとってはさほどでもない手術が、外科医Bにとっては難易度が高い手術となります。
絶対的に難易度が高い手術は、ある専門集団（例えば消化器外科医として）の中で、難易度が高いと位置づけられている手術のことです。
一つの指標として、消化器外科専門医という証明書があります。これは大雑把に言えば、中難度までの消化器外科手術をイニシャチブを取って“できる”ということになります。論文作成や学術参加も条件になります。消化器外科専門医が消化器がん治療の主治医になることは全く大丈夫です。ただし、手術の内容によって執刀医になるのは、術式に応じてとなります。
また、肝胆膵外科高度技能専門医という証明書があります。これは消化器外科専門医を取得した上に、さらに肝胆膵外科に特化した専門医制度で、これを取得した外科医に肝臓もしくは胆道・膵臓の手術を受けられるとほぼ問題ありません。取得には条件がかなり厳しく（手術ビデオの提出、肝胆膵外科修練施設での肝胆膵手術数、学術）、手術のクオリティはしっかり担保されます。また、周術期の管理もしっかり任せられます。
私は消化器外科医として、食道がん根治術、肝門部胆管がん手術、膵頭十二指腸切除、骨盤内蔵全摘術、この４つが安全にできればオールラウンドの消化器外科医として信頼できると思っています。この４つはいずれも複数の臓器を切除し、再建を伴うものです。また、血行再建を行うこともあり、周術期の管理も綿密なものとなります。
手術は経験が大きくものを言います。外科医は皆、ある意味失敗により成長します。あまり声を大きくして言うことはできませんが、100％完璧な手術はありません。
手術時間が長くなり、難易度が増せば増すほど、必ずどこかに振り返って考えたときに、「ああすればよかった、こうすればよかった」ということが必ずあります。もちろん患者さんにそういったことは言いません。まずは患者さんを亡くならせないこと、大きな合併症を起こさないこと、元気に歩いて退院してもらうことだけを考えています。
また、他の施設の手技を見ることも非常に大事です。学会や論文でも知識としては学べますが、実際に他の施設でその場に居合わせることが非常に重要です。有能な外科医は必ずそういった経験を積んでいます。
私は肝・小腸移植の臨床留学で非常に貴重な経験ができました。肝移植は、正直むつかしいです。消化器外科手術というよりは成否のカギは血管外科的な因子です。肝動脈、門脈再建、下大静脈再建、胆道再建で手術はほぼ規定されます。また、移植の手技を応用して、体外に一度腹部臓器を出して、体外で腫瘍を切除し、また体内に戻すような手術を経験できました。これを通して、同じ人間が「そこまでするんだ、そこまでできるんだ」と思えるようになりました。
肝移植の父、Thomas E. Starzlと一番弟子Andreas G Tzakis
絶対的に困難な消化器外科手術の代表例は肝門部胆管がん手術（特に左3区域切除）と肝膵同時切除です。前者は肝胆膵外科学会修練施設に限った調査でも手術死亡率が10％を超えます。肝膵同時切除は30％を超えることもあります。
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